独居老人スタイル



筑摩書房のwebちくまにて都築さんが連載している独居老人スタイルがぶっとんでいます
おそらくほとんどの人が違うレイヤーに居るんだと思うけど
文章のせいか、なんだか自分の居る場所がぜんぜん違うとこのような気さえする

以下導入分

いま、世の中でいちばん情けない種族は「独居老人」ということになっている。
いっしょに住んでくれる家族もなく、伴侶もなく、近所づきあいもなく、食事は3食コンビニ弁当、
最後は孤独死したまま気づかれず、残ったものはゴミ屋敷……みたいな。

でも、独居老人って、そんなに憐れむべき存在だろうか。
統計によれば高齢者の自殺率で、いちばん多いのが3世代同居、いちばん低いのがひとり暮らしだという。
ひとりで生きることの寂しさやつらさより、家族関係のもつれのような、
ひととひととのごちゃごちゃのほうが、はるかにひとのこころを壊すのだ。

これまでずいぶんひとり暮らしの、ものすごく元気な老人たちに出会ってきた。
世の中的には「独居老人」とひとくくりにされる、
そういうおじいさんやおばあさんは、だれもたいして裕福ではなかったけれど、
小さな部屋で、若いときからずーっと好きだったものに埋もれて
(それが本だろうがレコードだろうが、猫だろうがエロビデオだろうが)、
仕事のストレスもなく、煩わしい人間関係もなく、もちろん将来への不安もなく
──ようするに毎日をものすごく楽しそうに暮らしてる、年齢だけちょっと多めの元気な若者なのだった。

「独居老人」を英語に訳すのは不可能だ。
「single-living elderly people 」とか直訳しても、ぜんぜんニュアンスは伝わらない。
なぜなら「独居」が哀れなもの、という思想そのものがないのだから。
日本だってずーっと昔は、老いたら家を捨て、山に入って庵を結んだりするのが理想だったし、
ちょっと昔は「長屋のご隠居さん」になったりした。
いったいいつごろから、歳とってのひとり暮らし=情けない晩年、と決めつけられるようになったのだろう。

自分もこのままいけば確実に、それも近々独居老人になる。
だからというわけではないが、世にはびこる独居老人への誤解と偏見をぶち壊したくて、僕はこの連載を始める。
おじいちゃん! おばあちゃん! と慕ってくれる優しい家族と、孝行者の息子や娘に囲まれて、
幸せな大家族の一員でいられるなら、それはそれでいい。
でも厄介者扱いされたり、自分が死んだあとの家族の遺産争いなんか心配しながら、
居心地悪く大きな家に住むくらいなら、カネなんかなくても、家族なんかなくても、
好きなように暮らせばいいじゃないか。どこのだれにも気兼ねなく。

あえて独居老人でいること。そして、あえて空気を読まないこと。
それは縮みゆく、老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれないのだ。


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